木村一成写真事務所公式サイト アマゴンスキー on the web テンカラ雑記2005年版 No.9

当たり毛バリ


釣れない釣れないとボヤキばかりの日々を過ごすうちに梅雨も明け、今年も酷暑に悩まされ そうな気配だ。
とはいえ、この時期を実は待っていたのである。
夏は意外とテンカラで釣れるからだ。
梅雨時に出た水が下がって、また渇水気味になったころが狙い目だろう。
カンカン照りの日中はさすがに魚も人もへばってしまうが、朝夕の渓は生命力に満ち溢れ、思いがけず大物に出会うこともある。
甲虫類が多くなるためか、なんだかヘンテコな形の毛バリでもバックリ食ってしまうこともある。

先日、イワナ狙いで毎夏通う標高の高い川に行ったときのことだ。
この日はサウスポー大野一人だけイワナを爆釣した。
私と虫クンは必死にがんばって数匹、彼は余裕で10数匹。
入渓したポイントの違いがあるとはいえ、えらく差がついた。
たしかにこっちは餌釣りの先釣者がいたことを知らずに後を追ってしまったので、苦戦したともいえる。
しかし、どうもそれだけが理由とは思えない。
「ここぞというポイントでは必ず出たよ」
ともいう。
こっちはここぞだろうが、どこぞだろうがアタリすら出ない状況が続いていたのである。
あまりの釣れなさに虫クンは、「この川ならバンバン釣れるって言ったがね〜!」と、半ベソ状態でもあった。
もちろんサウスポー大野が釣れたのは、場所に当たっただけでなく彼の腕がいいからだ。
が、毛バリも少なからず関係したかなとも思った。
つまり、彼はその日の当たり毛バリを見つけていたのだ。
それはとんでもなくヒドイ形態のものだった。
本人が「ゴミのような」という毛バリだ。
真っ黒な胴がボッテリと玉のように巻いてあり、少ないハックルが全体から不規則にパラパラと出ているシロモノだ。
さらに糸がほどけて、これがまた情けなさを助長している。
たしかに一般的なテンカラ毛バリとはかけ離れている。
「いやなに、これと同じようなゴミみたい虫が流れていたもんで、似た毛バリを持ってたから使ったんですわ」
とは言うものの、よくぞそんな毛バリを持っていたものだ。
それより、ゴミのような虫って、どんな虫だ?
ちなみに、サウスポー大野はあまり毛バリ作りが上手いとはいえない。
狙って巻いたというより、そうとしか巻けなかったのだろう、きっと。
凝って作ることはまずしない、というかできる人ではない。
テキトーに心のおもむくままに巻いてる。
だから時々ギョッとするような逸品ができあがる。
ちなみに「これと同じゴミ毛バリは二度と巻けないなぁ」、だそうだ。
この世界に一本だけの貴重な当たり毛バリは、枝に取られてすでにない・・・・とか。


サウスポー大野に成り代わり再現したゴミ毛バリ。
ちょっと綺麗に巻きすぎたかな、わざと下手に巻くのは難しい。
実物はもっと太くて丸々して、独特の存在感を放っていたが。


崩落した崖下で手を振るサウスポー大野と虫クン。
そんなことしてる場合じゃないっちゅうの、そこは危ないんだから。
いつまた崩れても不思議はない微妙なバランスで岩が静止している。


しばらく釣れずに半ベソかいてたけど、釣れた瞬間に笑うんやねぇ〜。


この日の最大は33センチ。
サウスポー大野にポイントを譲ってもらい、運よくワタクシメが釣らせていただきました。


リリースしても即座に逃げず、ゆっくりと呼吸を整えるイワナ。
水面からこう見ると、間抜けな面がなんとも愛らしい。
やはりイワナは癒し系だなぁ〜。
この後、元気に帰られました。

   

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