木村一成写真事務所公式サイト アマゴンスキー on the web テンカラ雑記2005年版 No.7

「渇水の渓流」

深い釜を持つ流れは 渇水でも魚影は絶えない。

 梅雨入りしたというのにまとまった雨が少ない今年、どこの渓流も渇水である。こんなと きは餌 釣りよりもテンカラに分がある。さらに鮎釣りもそこかしこで解禁し、渓流に入る釣り人が減ってのんびりと釣り が楽しめようになった。
 先行者がいないと、魚はこうもおとなしく毛バリを食わえるものかと驚くこともある。先 日、岐阜県のとある渓流で2匹のイワナがなかよく並んで泳いでいるのを見た。水深20センチほ どの水溜りのようなポイント、魚までの距離は3mもないだろう。あまりに近すぎるとは思ったが、毛バリを落とすと片方のイワナがユラユラと寄ってきて、池 の鯉のごとくポッカリと食わえた。水面に浮かんだ毛バリを何の疑いもなく食う様は、まさにスローモーションの映像を見るがごとくであった。ユーモラスなそ の光景にはおもわず笑ってしまった。
 その後も時折見える魚影をビデオで撮りながら遡行すると、緩やかに開けたポイントが見 えてきた。平水時の水量があれば通し波ができるのだろうが、流れ込みに少し白泡が立つのみで全体がトロ〜ッとした流れになっている。岩盤際にライズがあっ たものの、すぐに毛バリを入れることは躊躇した。なぜなら水深はごく浅く、物音ひとつでも立てられない雰囲気があったからだ。それと流れがあまりに緩く、 ラインの重みで毛バリが少しでも引かれたら釣れないだろうという不安もあった。ひと呼吸おいてからゆっくりとポイントまでにじり寄り、2号ラインに0.4 号ハリス、♯16の毛バリの細仕掛けをソッと振り込む。フワリと毛バリが着水すると同時、一発で水面が割れた。あまりにあっけなく、あまりに素直だった。 こ んなとき、イワナってやつは本当にかわいらしく思える。
 さらに上流を目指すといい淵があって、羽虫が水面上を乱舞している。おびただしい数のハッチだ。このシーンをビデオで撮ろうとカメラを回した直後、竿を 出していた虫クンがアッと声を上げた。カメラを向けると竿が曲がる シーンが液晶画面に映った。フッキングの瞬間は逃したがいい映像が撮れた。
 この日は魚さえいればどれだけでも釣れるのではという好条件だったが、そうそう数は釣れない。以前のように魚影が濃いわけではないのだ。しかし、遊びな んだからこれく らいでちょうどいい。中庸の美徳という言葉もある。美しい渓流を釣りあがる気分の良さは格別で、たくさん釣れな くてもテンカラは満足できる。。


素直なイワナたちに自然と笑顔がこぼれる。癒し系渓流魚といったところか。

 ひとしきりイワナ釣りを楽しんだ後、アマゴかヤマメを相手にちょっとスリリングな釣り がしたくて本流に 下りた。ここは本来ならヤマメの川だが、今はアマゴも混棲している。淵のたるみに毛バリを入れておくと勝手にウグイが食いついている。やれやれと思いつつ も、ウグイとて川の住人だ。ウグイすら育たぬ川は健全とはいえない。これなら本命もよかろうと思い、流れ込みや流芯近くを誘うとやはりヤマメかアマゴが掛 かる。まさに教科書どおり。 こんなときのテンカラは実にやさしい。開けた早瀬にも毛バリを打ってみると、銀白の魚体がスッと出た。またウグイかと思って取り込んだら銀化だ。はた してヤマメかアマゴか。ネットの中で光輝くシルバーボディーには、うっすらとパーマークと朱点が見え隠れしている。アマゴだったことが少し残念だが、美し い魚体に見とれるばかり。マスというにはかわいいサイズだが下流のダム湖から遡上したのだろう。
 もういい、これで十分だ。今日はいい日だ。


ネットでウロコが少し剥がれてしまったが、なんと美しい光沢をもった銀色なのか。
各ヒレにアマゴの橙色はなく、シャープに切れ込んだ尾ビレがノボリの証でもある。

 
   

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