現在C&R区間に設定されている石徹白の峠川は、ボクが初めてテンカラを振った川だ。当時、テンカラを教えてくれた遠藤
正仁師匠に「本流はお前ではまだ無理だから、ここでやってろ、最初に釣れるのはイワナだよ」と言われ、峠川のとあるポイントの白泡めがけて毛バリを振っ
た。これがテンカラ初体験であっ
た。遠藤師匠が勧めてくれたポイントのすぐ後ろには大きな木があって、毛バリが何度も引っかかる。面倒だが、いちいち木によじ登って毛バリを回収した。な
にせ遠藤師匠からもらっていた毛バリはたったの3本しかなかったから仕方がない。日も暮れたし、ちっとも釣れる気配がないので川から上がろうとした振り向
きざま、ガツンと手応えがきた。夢中でラインを手繰ると、腹がオレンジ色した7寸ほどの天然イワナが着いていた。思わず魚体を握ったが、ウナギのようにク
ネクネと体をよじらせてスルリと手から抜け落ちて逃げてしまった。なんとも言えないニュルっとした感触だけが手に残った。
初めての体験だったので、何がどうなって釣れたのかさっぱり分からなかった。その時はキャスティングなんてまるでできなかったし、4.5mのグラス製の
クソ重たい鯉竿を振っていたから手が痛くなってしまった。何より毛バリが着水しているよりも、木の枝に引っかかっている時間のほうが長かったくらいだか
ら、正直なところテンカラが面白い釣りとは思えなかった。ただ、生餌でない毛バリをイワナが食べると
いうことが不思議だった。
初めてのテンカラから17年、峠川も渓相が随分と変わった。ボクも30代後半になって老眼が始まりだし狼狽するようになった。ただ、毛バリを引っ掛けて
いた木は今もあって、その木を見る度に初めて釣れたイワナのことを思い出す。あのイワナの末裔は今も峠川で泳いでいるのだろうか。

峠川C&R区間はアマゴよりもイワナの生息に適した川のようだ。
8寸くらいのイワナがよく出てきたエリアがあった。
一昨年あたりに生まれた同級生たちだろうか。

イワナも尺クラスになると力が強く、竿をグングンしならせて楽しませてくれる。
きっとこのイワナも、多くの釣り人のハリを何度も食わえてはリリースされ続けたのだろう。

オレンジ色の腹部が始めて釣ったイワナを想起させる。
アマゴとはまた違った艶やかさがある。

ところで、イワナは陸の上で立つ(?)のである。
アマゴは横にベチャッと寝てしまうことが多いのだが。
少しの湿り気があれば岩をよじ登るというから、そういう体の仕組みなんだろう。